非化石証書(FIT)は、再生可能エネルギー由来の電気が持つ環境価値を証明する制度です。再生可能エネルギーの普及が進む中、企業の脱炭素経営やカーボンニュートラルの実現に向けた重要な手段として注目されています。特に、CO₂排出量の削減やESG投資の観点からも、その活用が求められています。
非化石証書を適切に活用するためには、その種類や仕組み、具体的な活用方法を理解することが重要です。本記事では、非化石証書(FIT)にスポットを当て、その仕組みや種類、具体的な活用法について詳しく解説いたします。
1.非化石証書(FIT)とは

非化石証書(FIT)とは、再生可能エネルギーをはじめとする非化石エネルギー由来の電気が持つ「環境価値」を証明する制度です。 電力そのものとは別に、CO₂を排出しない価値を切り離して取引できる仕組みとなっており、企業や自治体が脱炭素経営を推進するための手段として活用されています。
日本では、固定価格買取制度(FIT制度)のもとで発電された再生可能エネルギーの環境価値を証書化し、「FIT非化石証書」として取引する仕組みが整備されています。さらに、FIT制度を適用しない再生可能エネルギーや原子力などを対象とした「非FIT非化石証書」も存在し、用途に応じた選択が可能です。
この非化石証書を活用することで、電力の供給元を変えずに再生可能エネルギーの利用を証明できるため、企業のRE100やカーボンニュートラルの達成に貢献します。今後、脱炭素社会の実現に向けて、重要になっていく制度です。
出典:資源エネルギー庁「2018年5月から始まる「非化石証書」で、CO2フリーの電気の購入も可能に?」(2018/05/11)
2.非化石証書(FIT)の仕組みと種類

FIT非化石証書は、再生可能エネルギーをはじめとする非化石エネルギー由来の電気が持つ「環境価値」を証明する仕組みです。企業の脱炭素経営やカーボンニュートラルの推進に活用されており、種類によって仕組みや用途が異なります。ここでは、FIT非化石証書の具体的な仕組みと種類について詳しく解説いたします。
(1)仕組み
FIT非化石証書は、再生可能エネルギーや原子力などの非化石電源から発電された電力の環境価値を証書化し、市場で取引する制度です。企業はこれを購入することで、供給する電力のCO₂排出量削減を証明でき、脱炭素経営やカーボンニュートラルの推進に活用できます。
証書には、FIT制度適用の「FIT非化石証書」と、非FIT電源に由来する「非FIT非化石証書」があり、用途に応じた取引が可能です。また、トラッキング情報付きの証書を使えば、再エネ利用の透明性が向上し、企業の環境価値向上に寄与します。
出典:環境省「はじめての再エネ活用ガイド(企業向け)」P38(2022/3)
(2)種類
非化石証書(FIT)には、「FIT非化石証書」と「非FIT非化石証書」の2種類があります。
FIT非化石証書は、固定価格買取制度(FIT制度)のもとで発電された再生可能エネルギーの環境価値を証書化したものです。太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなど、再生可能エネルギー発電が対象となります。
一方、非FIT非化石証書は、FIT制度の適用を受けていない電源由来の証書で、「再エネ指定」と「再エネ指定なし」の2つに分類されます。
- 再エネ指定
FIT制度外の再生可能エネルギー由来の電力に発行されます。主に、大型水力、卒FIT電源、 バイオマスが対象です。 - 再エネ指定なし
主に原子力やごみ発電由来の電力が対象です。今後は、水素等も導入も検討されており、さらなる活用の幅が広がる可能性があります。
また、発電所の情報を追跡できるトラッキング付き非化石証書もあり、企業の再エネ利用の透明性向上に役立ちます
3.非化石証書(FIT)を導入するメリットと留意点

非FIT非化石証書が基本的に小売電気事業者だけに開放されているのに対し、FIT非化石証書は、企業が脱炭素経営を推進するための重要な手段として多くの需要家に活用されています。再生可能エネルギーの環境価値を証書として取引できるため、持続可能な社会の実現に貢献します。
しかし、導入にあたっては証書の種類や活用方法について正しく理解することが必要です。ここでは、FIT非化石証書を導入するメリットと、運用時に注意すべきポイントについて解説します。
(1) メリット
FIT非化石証書を導入するメリットは、以下のものが挙げられます。
- 再エネ目標の達成の実現
FIT非化石証書の導入は、企業が再生可能エネルギーの利用を促進し、環境目標を達成するための効果的な手段です。この証書を活用することで、企業は電力契約を変更せずに再生可能エネルギー由来の環境価値を取得できます。
これにより、設備投資が難しい場合でも、再エネ利用を実現し、脱炭素経営やカーボンニュートラルの推進に寄与します。さらに、非化石証書の活用は、企業の環境配慮の姿勢を示すPR効果や、ESG経営の一環としての評価向上にもつながります。
出典:環境省「はじめての再エネ活用ガイド(企業向け)」P38(2023/03)
(2)留意点
FIT非化石証書の導入には、価格に関して留意が必要です。特に、証書の価格は市場の需給バランスによって変動するため、購入コストが想定以上に高くなる可能性があります。また、最低入札価格が変動する固定化されていることから、市場環境によっては柔軟な調達が難しくなる点も考慮が必要です。これらのポイントについて、以下で詳しく解説します。
- 価格変動が発生
FIT非化石証書の導入に際しては、市場の需給バランスにより価格変動が生じる点に留意が必要です。証書の価格は、非化石価値取引市場でのオークション形式で決定されるため、調達コストが変動する可能性があります。
企業は予算計画やコスト管理において、この価格変動リスクを考慮し、適切な戦略を立てることが重要です。 - 最低入札価格の変動固定化
FIT非化石証書は、最低入札価格が設定固定されており、この価格単価は国が決定し毎年変更される可能性がある以下では購入できない点に留意が必要です。これは需給のバランスとは別に、FIT非化石証書の価格設定をどのようにすべきかという戦略的なプライシングによる側面が強いものとなります。これにより、証書の価値が一定水準に保たれる一方、市場価格が下落した場合でもコスト削減の余地が限られる可能性があります。
そのため、企業がFIT非化石証書を導入する際は、価格変動リスクだけでなく、最低入札価格が引き上げられる可能性によるコストの影響も考慮し、計画的な調達戦略を立てることが重要です。
4.非化石証書(FIT)の活用法

FIT非化石証書は、企業が再生可能エネルギーの環境価値を活用し、脱炭素経営を推進するための有効な手段です。ここでは、FIT非化石証書をどのように活用できるのか、その具体的な方法について解説します。
RE100等国際イニシアチブへの活用が可能
FIT非化石証書は、企業が国際イニシアチブに準拠しているという、対外的な環境PRに活用可能な手段の一つです。特に、RE100は、事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的なイニシアチブの中でも厳しいルールが設定されており、日本でも大手企業を中心に93社(2025年6月時点)が宣言しています。
特に、トラッキング情報が付与されたFIT非化石証書は、発電所の所在地や発電方法などの詳細情報が明示されており、RE100の報告要件を満たすことが可能です。 ただし、FIT非化石証書の供給量には限りがあるため、企業は計画的な調達戦略を立てることが重要です。
5.まとめ:非化石証書(FIT)を活用した再エネ戦略の検討を推奨

今回はFIT非化石証書の仕組みや活用法を中心に解説しました。再生可能エネルギーの導入や脱炭素経営を推進するために、FIT非化石証書は企業にとって有効な手段です。再エネ目標達成に向けて、戦略的に活用することで、環境負荷削減や企業価値向上が期待できます。
今後の事業活動において非化石証書をうまく取り入れ、持続可能な社会づくりに貢献することを目指してください。