非化石証書の価格動向については、近年のエネルギー政策や市場の需要に応じて、価格が変動しています。特に、FIT証書や非FIT証書における取引価格の動向は、再生可能エネルギーの普及状況や社会的関心を反映しており、エネルギー市場全体における重要な指標となっています。
今後も非化石価値市場の価格動向は、政策や技術革新の影響を受ける可能性が高く、注目すべきテーマです。ここでは、非化石証書の仕組みや価格、種類ごとの違い、価格動向を理解し、それを活用することで得られる企業のメリットを解説します。
1.非化石証書の仕組みや購入価格を解説

非化石証書は、クリーンエネルギーの推進と環境保護を目的とした仕組みで、再生可能エネルギーの価値を市場で取引できるようにするものです。ここでは、非化石証書の仕組みや購入価格についてご紹介します。
非化石証書とは
非化石証書とは、石油や石炭を燃やすことなく太陽光や風力などの再生可能エネルギーで作られた電気の価値「非化石価値」を取り出し、それを証書の形で売買できるようにしたものです。
この証書は、環境に優しい電力の価値を証明し、その価値を市場で取引できるようにする役割を果たし、また、再生可能エネルギーの使用を促進すると共に環境保護を進める役割を果たします。
出典:経済産業省 資源エネルギー庁『「非化石証書」を利用して、自社のCO2削減に役立てる先進企業』(2019/01/16)
非化石証書の仕組み
非化石証書には、「FIT非化石証書」と「非FIT非化石証書」の2種類があります。これらは、電気を発電する際に固定価格買取制度(FIT)を利用するかどうかで仕組みが異なります。FIT非化石証書は、FIT制度のもとで再生可能エネルギー発電事業者が発電した電力を日本卸電力取引所(JEPX)を通じて証書化し、小売電気事業者や電力の需要家が購入することができます。
一方、非FIT非化石証書は、小売電気事業者のみが調達できる証書です。再生可能エネルギー発電事業者がFIT制度を利用せずに発電した電力を、JEPXを通じて、または直接取引して発行されます。
出典:環境省『はじめての再エネ活用ガイド(企業向け)』p,38.(2022/05/02)
非化石証書の購入価格
FIT非化石証書の購入価格はオークション形式で決まります。
2024年度のデータによると、FIT非化石証書の価格は最高4.0円/kWh、最低0.4円/kWhで取引されていました。一方、非FIT非化石証書の約定価格は1.30円/kWhでした。このオークション形式による取引は、市場の需給バランスに基づいて価格が決まります。一方、非FIT非化石証書は相対取引が大半を占めており、オークション形式でも取引が行われますが、最近の傾向では需要に対する供給量が不足している状況となっております。
2.非化石証書の種類や価格の違い

非化石証書には、再エネ価値取引市場による「FIT証書」、高度化法義務達成市場による「非FIT非化石証書(再エネ指定あり)」および「非FIT非化石証書(再エネ指定なし)」の3種類があります。
これらの証書は、それぞれ異なる市場や制度に基づいて発行され取引されます。
FIT証書
再生可能エネルギー価値取引市場におけるFIT証書は、電気小売業者の入札価格によって決まるマルチプライスオークション方式です。2024年度のオークション結果は以下の通りです。
- 最高価格:4.0円/kWh
- 最低価格:0.4円/kWh
- 証書購入者:小売電気事業者、需要家、仲介事業者
- 証書発行量:約604億kWh
非FIT証書(再エネ指定)
再生可能エネルギーの指定市場(高度化法義務達成市場)における非FIT証書(再エネ指定)は、大型水力、卒FIT電源、バイオマスなどが対象となり、シングルプライスオークション方式で取引されます。
この方式では、発電事業者が売り入札を行い、小売電気事業者が買い入札を行った結果、約定価格が1点で決定されます。2024年度のオークション結果は以下の通りです。
- 最高価格:1.3円/kWh
- 最低価格:0.6円/kWh
- 証書購入者:小売電気事業者
- 買入入札量:約143億kWh
非FIT証書(再エネ指定なし)
非FIT証書(再エネ指定なし)は、原子力やごみ発電(廃プラ)を対象とし、将来的には水素などの導入も検討されています。
この証書は高度化法義務達成市場で取引され、オークション形式と証書購入者は再エネ指定の非FIT証書と同じです。2024年度のオークション結果は以下の通りです。
- 最高価格:1.3円/kWh
- 最低価格:0.6円/kWh
- 証書購入者:小売電気事業者
- 買入入札量:約117億kWh
3.非化石証書の価格動向

ここでは、非化石証書の価格動向について過去のデータを参考にその推移を振り返りながら、現在の取引価格の状況をご紹介します。
非化石証書の価格推移
非化石価値取引市場は、2018年5月に初めてオークションが開催されて、2025年5月23日をもって2024年度のオークションが終了しました。
2024年度のFIT証書取引の結果、第1回オークション分が約143億kWh、第2回オークション分が約116億kWh、第3回オークション分が約153億kWh、第4回オークション分が約190億kWhと推移し、約定平均価格は第3回目までが0.40円/kWh、第4回目が0.67円/kWhでした。
また、2024年度の非FIT再エネ指定証書の取引は、第1回オークション分が約17億kWh(0.60円/kWh)、第2回オークション分が約12億kWh(0.60円/kWh)、第3回オークション分が約1億kWh(1.30円/kWh)、第4回オークション分が約4億kWh(1.30円/kWh)でした。
さらに、非FIT再エネ指定なし証書の取引は、第1回オークション分が約3億kWh(0.60円/kWh)、第2回オークション分が約1億kWh(0.60円/kWh)、第3回オークション分が約1億kWh(1.30円/kWh)、第4回オークション分が約3億kWh(1.30円/kWh)でした。
全体として、取引量と価格には変動が見られました。
出典:経済産業省『非化石価値取引について』p,4.5.6.(2025/03/31)
出典:市場情報 | 非化石価値取引 | JEPX
最近の非化石証書の取引価格
2024年度の非化石価値取引市場では第4回目までオークションが実施され、FIT証書取引の最高価格は4.0円/kWh、最低価格は0.4円/kWhと第3回から最低価格は横ばいながら最高価格が大幅に上昇し、非FIT証書は再エネ指定の有無にかかわらず1.3円/kWhとなり、第2回の0.6円/kWhから大幅に上昇するなど全体的に非化石価値の入札価格は上昇傾向にあります。
この傾向には、再生可能エネルギーへの関心の高まりや市場ニーズの増加が影響していると考えられます。非化石価値の価格が全体的に上昇していることを踏まえ、これからの市場動向についても丁寧に注目していくことが求められます。
4.非化石証書の活用が企業にもたらすメリット

化石燃料発電によるCO2排出量の埋め合わせ
企業は、非化石証書を活用して化石燃料発電によるCO2排出の埋め合わせに役立てることができます。この場合、電力の小売完全自由化によって小売電気事業者ごとに「CO2排出係数」(一定量の電力を生み出す際に排出されるCO2量)が異なるため、自社の環境目標に合った電力を選ぶことが大切です。
特に、大量の電力を使用する企業がCO2排出量を大幅に削減したい場合、市場で流通している非化石証書をうまく活用することが効果的な選択肢のひとつと言えます。この非化石証書は、企業の持続可能な発展を後押しするだけでなく、社会全体の脱炭素化の推進にも貢献します。
出典:資源エネルギー庁『「非化石証書」を利用して、自社のCO2削減に役立てる先進企業』(2019/01/16)
出典:経済産業省『省エネ法定期報告情報の開示制度手引き -2024年度版-』p,18.(2024/12/06)
再生可能エネルギーの規則に従うことができる
省エネ法に基づき、2023年度から企業の同意のもと、エネルギー使用量や温室効果ガス排出量、非化石エネルギー転換の状況などの情報を開示する仕組みが導入され、2024年度からは年間エネルギー使用量1,500kL以上の全特定事業者を対象に本格運用が開始されました。
また、削減が難しい企業でも、削減量や証書を購入して活用することで、同量の温室効果ガスを自社の排出量から差し引くことが可能となり、環境目標の実現を支援します。特に、認証排出削減量の一つである非化石電源由来削減量には、FIT非化石証書(再エネ指定あり/なし)が含まれます。
出典:経済産業省『再生可能エネルギーの導入に関する諸論点』p,37.(2024/08/06)
出典:経済産業省『省エネ法定期報告情報の開示制度手引き -2024年度版-』p,18.(2024/12/06)
5. 非化石証書の価値と価格を理解し企業成長を導く未来戦略を

非化石証書は、太陽光や風力など再生可能エネルギーで作られた電気の「非化石価値」を証明し、それを証書として市場で取引可能にした仕組みです。この証書は、環境に優しい電力の利用を促進するとともに、化石燃料発電によるCO2排出量を埋め合わせる手段としても活用されています。
また、この仕組みは、再生可能エネルギーの利用を支援し、エネルギー転換を推進する重要な役割を果たします。
2024年度の非化石価値取引市場では、これら非化石証書の価値が大きく上昇しており、その需要が高まっています。企業は、非化石証書を理解し有効に活用することで、環境負荷を軽減しながら持続可能な成長を目指す未来志向の戦略を構築することが期待されます。