非化石証書の購入について、わかりやすく解説します。非化石証書の購入は、実質的なカーボンニュートラルを実現する手段として、事業者での事例が増えています。
現在各企業には省エネだけでなく、再生可能エネルギーの活用も求められています。再生可能エネルギーを直接導入するハードルが高いような場合、非化石証書の購入は有効な解決策となるでしょう。
本記事では非化石証書の購入方法や、そのメリットおよび注意点、実際の購入事例などについて取り上げます。
1.非化石証書の購入方法

非化石証書は、購入することでCO2排出量削減に貢献できる仕組みです。非化石証書の購入方法について解説します。
非化石証書とは
非化石証書は、石油や石炭などの化石燃料を使っていない非化石電源で発電された電気が持つ「非化石価値」を、証書にして売買する制度です。
太陽光発電など固定価格買取制度の対象となる電源を対象とした「FIT非化石証書」とそれ以外の「非FIT非化石証書」がありますが、「非FIT非化石証書」は原則として小売電気事業者のみが購入者となります。「FIT非化石証書」は2021年11月より需要家が直接購入し、再エネ電力の調達に利用できるようになりました。
出典:環境省「はじめての再エネ活用ガイド(企業向け」p40(2024/1)
出典:資源エネルギー庁「非化石価値取引市場について」p3(2020/11/27)
出典:資源エネルギー庁「FIT法改正で私たちの生活はどうなる?」(2017/8/8)
非化石証書の購入価格の目安
非化石証書のオークションにおける約定価格・約定量は、JEPXのホームページ上で随時公開されています。それによるとFIT非化石証書について、2025/5/232025/2/28約定分における約定最高価格は4.01.0円/kWh、約定最安価格は0.4円/kWhでした。
オークションの約定量・参加者数は年々増加しており いますが、売入札量に対するが買入札量の比率は2025年5月オークションで7割近くにまで上昇しました。 を上回る状況が続いており、また、高度化法の義務履行手段として、非FIT証書の上限価格以上でのFIT証書購入量を義務履行に活用する代替調達制度が適用されたこともあり、約定平均価格はは0.67円/kWhと跳ね上がりました。最低価格水準(0.4円/kWh)で推移しています。
出典:一般社団法人日本卸電力取引所「取引市場データ」
出典:資源エネルギー庁「非化石取引について」p2(2024/12/24)
出典:経済産業省「非化石価値取引について」(2025/4/23)
非化石証書の購入時期
非化石証書のオークションは年度に4回で、開催時期も8月・11月・翌2月・5月と決まっています。FIT非化石証書の場合、毎回20日前後〜月末、5月のみ月末の1週前が入札期間となります。入札期間が限られていますので、タイミングを逃さないよう注意が必要です。
出典:資源エネルギー庁「非化石価値取引について-再エネ価値取引市場を中心に-」p6(2023/2/9)
出典:一般社団法人日本卸電力取引所「2024 年度分非化石価値取引市場スケジュールのご案内」p1(2024/6/28)
2.非化石証書の購入によるメリット

非化石証書の購入によって、企業はさまざまな利点を得られます。非化石証書購入のメリットについて解説します。
自社の再エネ調達目標の達成
再エネ指定の非化石証書を購入することで、事業者は自社の再エネ調達目標達成に活用することができます。企業が再生可能エネルギーの導入を図る場合、太陽光発電などの設備を導入する方法も考えられます。
しかし非化石証書の購入では特段の設備は不要で、簡易的かつ比較的安価に再エネを導入することが可能です。
出典:資源エネルギー庁「はじめての再エネ活用ガイド(企業向け)」p10,38(2022/3)
ESG投資の誘引
金融機関や投資家の間で、投資先企業の企業価値を、社会課題や環境問題に関連するリスクも含めた視点で評価する「ESG投資」が活発化しています。
非化石証書の購入を通じてRE100(企業が事業運営に必要な使用電力を100%、再生可能エネルギーで賄うことを目標とする国際プログラム)などESGに関する取組を宣言・報告すれば、そうしたESG投資を呼び込むひとつの要因になり得ます。
出典:環境省「はじめての再エネ活用ガイド(企業向け)」p43(2022/3)
テナント入居の事業所も対応可能
事業所がテナントビルの場合、電力会社と契約するのは通常ビルオーナーであるため、オフィス電力として再生可能エネルギーを導入するのは困難でした。
しかし再エネ指定の非化石証書を購入することで、テナントビル入居の事業所であっても、実質的に再生可能エネルギーを導入することが可能です。
脱炭素を推進する企業がテナントスペース単位での再エネ導入を図る際に、非化石証書は有効な選択肢となるでしょう。
3.非化石証書の購入に関する注意点

非化石証書の購入にあたっては、注意すべき点もあります。非化石証書購入に関する注意点について解説します。
FIT非化石証書と非FIT非化石証書の違い
先述の通り非化石証書には「FIT非化石証書」と「非FIT非化石証書」があり、需要家が直接購入できるのは前者となります。
FIT非化石証書は対象電源が太陽光・風力・小水力・バイオマス・地熱など固定価格買取制度(FIT制度)の対象となるものであるのに対し、非FIT非化石証書は大型水力発電などFIT制度以外の電源を対象としています。
さらに非FIT非化石証書には原子力など、非化石だが再エネではないものも含まれます。再エネ導入を目的として非FIT非化石証書を購入する場合は、「再エネ指定の」非FIT非化石証書を選択する必要があります。
| 再エネ指定 | 指定なし | ||
| 証書種類 | FIT非化石証書 | 非FIT非化石証書 | |
| 対象電源 | 太陽光・風力など | 大型水力など | 原子力など |
出典:資源エネルギー庁「非化石価値取引市場について」p3(2020/11/27)
購入した証書の有効期限
N年1月〜12月に生じた非化石価値は、N年4月~N+1年3月に消費した電力に対して適用できます。非化石証書の取引はN+1年5月まで行われますので、消費電力量が確定した後から、必要な非化石証書を購入することが可能です。
ただし購入した証書は翌年度には使えませんので、注意が必要です。
出典:一般社団法人日本卸売電力取引所「非化石価値取引について」p2(2024/3/312)
出典:資源エネルギー庁「非化石価値取引について」p6(2023/2/9)
出典:一般社団法人日本卸売電力取引所「非化石価値取引市場説明会 ご質問&回答」p1
4.非化石証書の購入事例【日機装株式会社】

非化石証書の導入事例をご紹介します。産業用機械などを製造している工業メーカー日機装株式会社のケースです。
導入前の課題
日機装株式会社は、脱炭素社会への貢献を企業戦略の重要な柱と位置づけています。2023年に太陽光発電システムの導入により、金沢製作所の電力需要の約4%程度を再生可能エネルギーで賄えるようになりましたが、敷地スペースの問題でさらなる設備増設は困難でした。
再生可能エネルギーをさらに調達するため電力会社の再エネプランを検討しましたが、単価が割高であったため導入には至りませんでした。
出典:Carbon EX「Carbon EX導入により低コストかつ効率的な非化石証書調達を実現し、工場の再エネ化を推進」(2024/12/19)
非化石証書購入の効果
日機装株式会社では、非化石証書の導入によって、従来の電力会社の再エネプランに比べて大幅に低価格で必要量の環境価値を調達できました。これにより金沢製作所の電力再エネ化は大きく前進し、非化石証書を活用したCO2排出量削減が実現しました。
現在、同製作所は消費電力全量の実質再エネ化の目標を掲げ年間約7,400t-CO2の削減を目指しています。
出典:Carbon EX「Carbon EX導入により低コストかつ効率的な非化石証書調達を実現し、工場の再エネ化を推進」(2024/12/19)
5.まとめ:非化石証書の購入を通じて再生エネルギーの導入を促進

非化石証書は、非化石電源による環境価値を証書化したもので、当該証書を購入することで、実際に利用している電力のうち非化石証書購入量相当分を非化石電力とみなすことができます。
太陽光発電など設備の新規導入を伴わずに非化石電力が導入できるため、今後も普及していくことが予想されます。
非化石証書の調達には専門性が必要なため、非化石証書の購入を通じて、再生可能エネルギーの導入を促進していきましょう。